移転価格コンサルタントとして働く公認会計士の日常

公認会計士、税理士。現在Big4系税理士法人でマネージャーとして勤務。

移転価格税制について②

役務提供取引

 

移転価格が問題になるのは以前の記事で説明した棚卸資産取引に限りません。

主に移転価格が問題になるのは以下の3つの取引です。

①棚卸資産取引

②役務提供取引(IGS)

③無形資産取引(Royalty)

(資金貸借取引もありますが上記3取引と比較すると重要性は落ちると思います)

まずは役務提供取引について説明します。

ここでも同様に日系企業の日本親会社(A社)とシンガポール子会社を例にとって説明します。

例えば、A社がシンガポール子会社のためにシンガポールの市場調査を行い、営業のサポートを行った場合、一般的にはグループ内でのサポートだから対価は発生しないと考えるかもしれません。

但し移転価格の考え方では市場調査・営業サポートにかかったコストに一定のマークアップを付した金額をシンガポール子会社はA社に支払う必要があります。

このように考える理由としては、もしA社がシンガポールに所在する企業(第三者)に対して同様の市場調査・営業サポートを行った場合、それに見合った対価を回収することが想定されます。ここでも独立企業間価格が問題となります。

例えば市場調査・営業サポートにかかったコストが200円、マークアップ率が5%とします。その場合、A社は第三者から210円を受領することになりますので、シンガポール子会社からも同様に210円を役務提供の対価として受領する必要があります。

もし受領しなかった場合には日本の税率を40%とすると日本の税務当局は84円の税収を逸していることになります。

この場合にA社に移転価格調査が入ると84円の追徴課税を受けるリスクがあります。

コスト算定についてはルールを決めてしまえば企業内で算定することが可能ですが、マークアップ率算定にはベンチマーク分析が必要です。そのため、少なくとも移転価格ポリシー作成にあたっては税理士法人のサポートが必要です。

多くのグローバル日系企業は棚卸資産取引には移転価格課税リスクがあることを認識しています。但し、役務提供取引にまで移転価格課税リスクがあることを認識していないケースが多いです。

もし役務提供取引の対価を海外子会社から回収していない場合には早急に対応が必要です。

なお、役務提供取引には上述した営業サポート以外にも会計・税務に係るサポート、企画に係るサポート、ITに係るサポート、人事に係るサポート等も含まれます。

役務提供の範囲は幅広いので日本親会社から海外子会社に対して同様のサービスを提供している企業が大部分だと想定されます。