移転価格コンサルタントとして働く公認会計士の日常

公認会計士、税理士。現在Big4系税理士法人でマネージャーとして勤務。

公認会計士試験について

公認会計士2次試験合格の秘訣

 

 私が公認会計士試験に合格したのは2006年です。

ですので、現在とは試験傾向が変わっているかもしれませんが、私が3年間の公認会計士試験のための学習で最も重要だと感じたことを書きたいと思います。

・暗記しないこと、徹底的に理解し、自分の口で説明できるようになること

・苦手科目を作らないこと(試験科目の内容を好きになること)

です。

公認会計士試験の範囲は膨大ですので、すべて暗記するのは不可能だと思います。中には暗記が非常に得意で覚えられる人もいるかもしれませんが、私は違いました。

1年目の学習では私はテキスト全部暗記してやろうと必死で勉強していました。暗記だけでも短答式試験は通過することができました。短答式試験だけを通過したいのであれば全部暗記するのが手っ取り早いと思います。

ただ、暗記だけの勉強では論文式試験では手も足も出ませんでした。

テキストや答練で出題された内容そのままであれば暗記だけでも攻略できると思います。しかし、実際の試験ではそのような問題は多くて半分程度だと思います。それ以外の問題はその場で考える必要がある問題です。答練の問題と似ていても少し聞いている角度が違ったりする問題も多々含まれています。

さらに言うと、試験の採点をしているのは大学教授等なので、理解して書いているか暗記してそのまま書いているかくらいはすぐにわかると思います。暗記だけの答案と理解して自分の言葉で書いた答案のどちらが評価されるかは一目瞭然でしょう。

そこで、私は暗記することをやめ(1年目の学習で十分暗記したからで、最低限の暗記は必要です)、すべての科目を好きになること、理解することを重視して勉強しました。

理解重視の勉強は特に監査論や企業法、財務諸表論(会計学)の理論科目に非常に役立ちます。

その結果、論文式試験本番では少しひねられた問題が出題されましたが抵抗なく回答でき、無事に合格できました。

ちなみに、上記のコツ以外の勉強のコツは

・毎日同じ時間に起きて同じ時間に寝る(規則正しく生活する)

・ストップウォッチで徹底的に時間管理し、毎日記録する

などです。

公認会計士の勉強は長丁場なので、自己管理が非常に重要です。時には勉強したくない日もありますが、そのような日には思い切って何も勉強しないことも精神衛生上有効だと思います。何も勉強せずに自分の趣味に没頭することで次の日から集中力を高めて効率的に勉強することができます。

一人でも多くの公認会計士試験の受験生のお役にたてるとうれしいです。

インドネシア税制改正について

インドネシア税制改正

 

BEPS行動計画13を受けてインドネシアでは各国に先駆けて税制改正を行い、2016年12月30日に内容が公表されました。

税制改正の内容は、マスターファイルとローカルファイルを課税年度終了後4カ月以内にインドネシア語もしくは英語で作成しなければならないというものです。(作成日を記載した書類を作成、提出する必要はありますが、マスターファイルとローカルファイルの提出までは求められていません)

日系企業のインドネシア子会社の場合には2017年4月末までにマスターファイルとローカルファイルを作成する必要があります。

日本親会社でマスターファイルを作成している場合、インドネシアで要求されている情報を追加し、翻訳する必要があります。(一般的にはインドネシア語版を準備します)

もしマスターファイルを作成していない場合には税理士法人への相談をお勧めします。

また、ローカルファイルについては1から準備する必要があるので4ヶ月という短い起源で作成するのは相当な負荷が想定されます。

弊法人のインドネシア拠点にも日系企業やその他外資系企業からの依頼が相次ぎ、業務が回らなくなっているようです。

インドネシアの税制改正は公表から作成期日まで4ヶ月という異常な税制改正だと個人的には思います。

ただ、移転価格税制は国家間の税金の取り合いなのでインドネシアの例に倣って、今後は他国も同様の税制改正を行うことが想定されます。

突然の税制改正にあわてないように海外子会社の移転価格文書整備状況を日本親会社で管理し、税制改正の状況をキャッチアップしてくことが必要です。

企業サイドで税制改正の状況を逐一キャッチアップするのは難しいので弊法人ではクライアント様に情報提供させていただいております。

 

移転価格調査

 

補足ですがインドネシア税務当局では移転価格課税に非常に力を入れています。インドネシア税務当局は毎年税務執行に係る目標を定めており、2017年の目標は税収目標達成年度です。

2015年インドネシア税務当局の税収目標に対する税収の達成率は82%、2016年度は81.5%といずれも低水準にとどまっています。移転価格課税は大規模案件であれば多額の税収確保につながるため、特に大規模納税者に目を光らせています。

インドネシア当局はアグレッシブな税務調査で有名なので日系企業のインドネシア子会社については特に移転価格対応が必要となります。日系企業の中では、日常的に海外子会社とコミュニケーションが取れていないケースが多いので、円滑なコミュニケーションを図り、移転価格リスクを低減させる努力が必要です。

移転価格税制について③

無形資産取引

 

移転価格が問題になる無形資産取引について記述します。

無形資産取引が問題になるのは特にOut-Out取引となります。

Out-Out取引とは、例えば日本親会社(A社)、シンガポール子会社(B社)、中国子会社(C社)を有する企業グループを想定するとB社、C社間の取引です。つまり、商流上日本を通らない取引をOut-Out取引といいます。

日系企業のグローバル化が進むにつれ、Out-Out取引は増加傾向にあります。

想定されるケースとしてはB社で製品を製造し、それをC社に販売し、最終的にはC社がシンガポール国内の第三社に販売するケースです。

この場合、日本親会社(A社)はB社に対して製品の製造ノウハウの供与や特許の供与を行うのが一般的です。しかし、Out-Out取引においてはB社がA社に対して無形資産の対価(Royalty)を支払わない限りはA社には全く利益が入ってこないことになります。

つまり、日本の税務当局にとってはOut-Out取引によって税収が得られないことになります。そこで無形資産取引が移転価格税制において問題になります。

仮にA社が中国のお客さん(第三者)に対して同様の製造ノウハウの供与や特許の供与を行った場合、その対価としてRoyaltyを受領するものと思います。これが無形資産取引における独立企業間価格です。一般的には製品の売上高の2%程度がRoyaltyの目安となります。

Royalty料率についてもベンチマーク分析を実施し、適切なレンジ(概ね1~5%程度)を算定する必要があります。Royalty料率は無形資産の内容によって大きく異なり、ベンチマーク分析は棚卸資産取引、役務提供取引のベンチマーク分析よりも専門性が高く煩雑なので税理士法人に依頼することをお勧めします。

無形資産取引についても他の取引と同様に独立企業間価格に基づいて算定したRoyaltyの金額に税率を考慮した金額が追徴課税の対象となります。

今後、日本経済が衰退すると日系企業のグローバル化がますます促進されることが想定されます。その場合、無形資産取引の重要性はますます高まることが想定されますので、無形資産取引に係る移転価格ポリシーを整備されることをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

移転価格税制について②

役務提供取引

 

移転価格が問題になるのは以前の記事で説明した棚卸資産取引に限りません。

主に移転価格が問題になるのは以下の3つの取引です。

①棚卸資産取引

②役務提供取引(IGS)

③無形資産取引(Royalty)

(資金貸借取引もありますが上記3取引と比較すると重要性は落ちると思います)

まずは役務提供取引について説明します。

ここでも同様に日系企業の日本親会社(A社)とシンガポール子会社を例にとって説明します。

例えば、A社がシンガポール子会社のためにシンガポールの市場調査を行い、営業のサポートを行った場合、一般的にはグループ内でのサポートだから対価は発生しないと考えるかもしれません。

但し移転価格の考え方では市場調査・営業サポートにかかったコストに一定のマークアップを付した金額をシンガポール子会社はA社に支払う必要があります。

このように考える理由としては、もしA社がシンガポールに所在する企業(第三者)に対して同様の市場調査・営業サポートを行った場合、それに見合った対価を回収することが想定されます。ここでも独立企業間価格が問題となります。

例えば市場調査・営業サポートにかかったコストが200円、マークアップ率が5%とします。その場合、A社は第三者から210円を受領することになりますので、シンガポール子会社からも同様に210円を役務提供の対価として受領する必要があります。

もし受領しなかった場合には日本の税率を40%とすると日本の税務当局は84円の税収を逸していることになります。

この場合にA社に移転価格調査が入ると84円の追徴課税を受けるリスクがあります。

コスト算定についてはルールを決めてしまえば企業内で算定することが可能ですが、マークアップ率算定にはベンチマーク分析が必要です。そのため、少なくとも移転価格ポリシー作成にあたっては税理士法人のサポートが必要です。

多くのグローバル日系企業は棚卸資産取引には移転価格課税リスクがあることを認識しています。但し、役務提供取引にまで移転価格課税リスクがあることを認識していないケースが多いです。

もし役務提供取引の対価を海外子会社から回収していない場合には早急に対応が必要です。

なお、役務提供取引には上述した営業サポート以外にも会計・税務に係るサポート、企画に係るサポート、ITに係るサポート、人事に係るサポート等も含まれます。

役務提供の範囲は幅広いので日本親会社から海外子会社に対して同様のサービスを提供している企業が大部分だと想定されます。

移転価格税制について①

移転価格税制の概要

 

移転価格に関して書かれた参考書は書店に行けばありますが、全く馴染みのない方が簡単に理解できるような参考書は見たことがありません。

そこで、できるだけ簡単に移転価格税制の説明をさせていただきます。

 

棚卸資産取引

 

移転価格とは、企業グループ内の取引価格をいいます。

以下、日本よりも税率の低いシンガポールを例にとって説明します。(仮に日本の税率を40%、シンガポールの税率を20%としています)

シンガポールに子会社を有する日系企業の日本親会社(A社)がシンガポール子会社に製品を200円で販売した場合、この200円が移転価格となります。(ケース1)

親子会社間の取引ですので100円で販売することも可能です。(ケース2)

この商品の原価が60円であったとし、シンガポール子会社はこの商品を外部に250円で販売するとします。(通貨は考慮せずすべて円としています)

この場合、日本国内で支払う税金、シンガポールで支払う税金はそれぞれ以下のようになります。

(ケース1)

(日本側)

(200円ー60円) × 40% =56円

(シンガポール側)

(250円ー200円) × 20% = 10円

この場合、この企業グループが日本、シンガポールで支払う税金は66円になります。

 

(ケース2)

(日本側)

(100円ー60円) × 40% =16円

(シンガポール側)

(250円ー100円) × 20% = 30円

この場合、この企業グループが日本、シンガポールで支払う税金は46円になります。

 

このように親子会社間の取引価格(移転価格)を操作するだけで企業グループ全体で支払う税金の額を操作することが可能です。

A社がシンガポールのお客さん(第三者)に対して製品を200円で販売している場合、これを独立企業間価格(ALP)といいます。

ケース1ではALPで販売しているため、日本の税務当局にとっては特に問題はありません。その反面、ケース2では100円で販売することによって日本で得られるはずであった税収が40円減ることになります。

A社に移転価格調査が入った場合、この40円が追徴税額として課税される可能性があります。

移転価格課税リスクを抑えるために、企業は移転価格に関するルールを定め、そのルールに基づいて移転価格を決める必要があります。

 

最近の監査法人について

監査法人の動向

 

最近監査法人時代の同僚との飲み会があり、監査法人の状況について聞いてきましたので書かせていただきます。

以前と比較して公認会計士試験の受験者が減っている影響で、合格者も減っています。

そのため、大手監査法人ではどこも人手不足で新人のクオリティが低下しているようです。(これは昔から言われている感じがしますが)

また、一般企業への転職市場が活況なので中堅どころのマネージャー、シニアスタッフの転職が増えているようです。これらの要因で人手不足がひどいようで、引き留めるために昇進の要件を甘くしているようです。

私の後輩が今年マネージャーに昇進したようですが、以前の昇進要件だとその後輩の昇進はかなり困難だと思います。もちろん本人の努力もあると思いますので一概には言えませんが昇進が容易になっているのは間違いないでしょう笑

引き留めのためかはわかりませんが以前と比較して給与やボーナスも少し上がっているようです。マネージャーだと1,100万円程度だそうです。

税理士法人よりもプレッシャーが少なくて1,100万円ももらえるなんて正直羨ましいです。(私は1,000万ちょっとなので負けています)  ただ、今でもパートナーになるのはかなりハードルが高いようです。

監査法人は景気動向によって人事制度をころころ変えるので今の状況がいつまで続くかわかりませんが、少なくとも今の監査法人は日本有数の恵まれた職場でしょう。

監査法人と税理士法人の違い

監査法人と税理士法人の違い

 

私が監査法人から税理士法人に転職して感じたギャップについて書きたいと思います。

私は監査法人では国内監査部門に在籍しており、業務で英語を使用した経験は片手で数えられるくらいです。TOEICのスコアは900点を超えていますが、英文メールも作成できず、英会話など夢のまた夢のような状態でした。

税理士法人への転職の際には英語のペーパーテストの点数や会計士の資格等を評価していただき無事に入社できましたが英語にはほとんど縁のない状態で転職しました。

税理士法人に入って驚いたのは、同僚や上司の3割くらいが外国人であったこと、社内メールがすべて英語であったことです。また、監査法人と比較して優秀な方の割合が非常に高いと思います。

クライアントにとって法定監査を受けることは義務なので、良くも悪くも監査法人在籍時にはクライアントから非常に丁寧に接していただいていました。

税理士法人で提供させていただいているサービスはコンサルティング業務なので高いフィーに見合ったサービスを提供しなければいけません。そのため、業務に関するプレッシャーが監査法人と比較して段違いに大きいです。

税理士法人に転職してよかったと感じているポイントは以下の3点です。

・英語力(特に英文メール作成、英会話)が格段に高まった

・同僚に外国人がたくさんおり、職場の雰囲気が非常にいい

・移転価格に関する実務経験を積むことができた

監査法人に在籍していて税理士事務所への転職を考えている方の参考になれば幸いです。

ちなみに、税理士法人のパートナーになれば、監査法人のパートナーの1.5倍程度の年収をいただけます。